大阪地方裁判所堺支部 平成8年(ワ)14号 判決 1997年7月17日
大阪府<以下省略>
原告
X
右訴訟代理人弁護士
山﨑敏彦
東京都千代田区<以下省略>
被告
日興證券株式会社
右代表者代表取締役
A
右訴訟代理人弁護士
関聖
同
水越尚子
同
宮﨑乾朗
同
大石和夫
同
玉井健一郎
同
板東秀明
同
辰田昌弘
同
田中英行
同
塩田慶
同
松並良
同
河野誠司
主文
一 被告は原告に対し、金七八七万円及びこれに対する平成二年一月二三日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する
三 訴訟費用はこれを五分し、その二を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
四 この判決は、第一項につき仮に執行することができる。ただし、被告において金五五〇万円の担保を供するときは、右仮執行を免れることができる。
事実及び理由
第一原告の請求
被告は原告に対し、金一三一四万円及びこれに対する平成二年一月二三日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、証券会社である被告からワラントを購入した原告が、被告及びその従業員の違法な勧誘・販売行為等により代金相当額の損害を被ったとして、主位的に共同不法行為責任又は使用者責任に基づき、予備的に被告の債務不履行責任に基づき、その損害の賠償を求めている事案である。
一 争いのない事実及び証拠上明らかな事実(証拠を挙示していない部分は当事者間に争いがない。)
1 原告は、医師(a大学医学部産婦人科の専任講師)であり、被告は、株式取引の仲介等を目的とする株式会社で、大阪府堺市に堺支店を設置している。そして、同支店の従業員で原告の担当者であったB(以下「B」という。)は、平成二年一月中旬ころ、原告に対し、ワラントの購入を勧めた(証人B、原告本人、弁論の全趣旨)。
2 原告は、平成二年一月二三日、被告から、権利行使期限が平成六年一月二五日の新日鉄ワラント五〇枚(以下「本件ワラント」という。)を購入し、その代金一一九五万円を支払った。
3 本件ワラントは、権利行使期限の経過によりその価値がなくなってしまった。
二 本件の争点
1 被告の損害賠償責任の存否について
(一) 原告の主張
(1) 不法行為責任(主位的)
Bは、本件ワラント取引において、原告に対し、ワラントについて説明することなく、断定的判断を提供する等の故意又は過失による違法な勧誘をし、そのため、原告は本件ワラント取引を行い、代金相当額の損害を被ったもので、被告には、これを会社ぐるみで行っていた共同不法行為責任があり、そうでないとしても、使用者責任(民法七一五条)がある。
(ア) 説明義務違反、取引説明書交付義務違反等
ワラント取引の仕組みは、複雑で、一般人には理解困難なものであるから、証券会社は、このような商品を取引する場合には、取引の相手方に対し、商品の種類、内容、危険性、値動き(ワラントが極めてハイリスクな投資商品で、権利行使期間が過ぎると、紙屑同様になること)等について十分説明しなければならない。
しかし、被告及びBは、本件ワラント取引を行うに当たって、原告に対し、右のような説明を一切しなかった。本件取引前の平成二年一月ころ、Bが原告に電話で二度ほど「ワラントを買っていただいて、大きく儲けていただくチャンスです。ワラントはいいですよ。新発ですから絶対損はしません。新日鉄のワラントです。必ず儲かりますから。決して損はさせません。」などと言って勧誘し、同月二二日に、Bが電話で、「ワラント五〇枚、一一九五万円分やっと取れました。取り敢えず買っておきました。決して損はありませんから。明日銀行から一一九五万円、振り込んで下さい。」と原告に連絡し、原告がそんな話は聞いてない旨断ったが、翌二三日、Bが再度電話で「まだ振込をいただいてないようですね。値段が下がってワラントがいらないとおっしゃるなら、会社の方で責任をもってお返ししますので、取り敢えず送金だけしていただけませんか。決して迷惑はかけません。」などと原告に頼んできたので、原告は、本件ワラントの危険性を理解することなく、Bの右指示に従い、その代金を被告に送金することになった。ちなみに、原告は、本件ワラント取引にあたり、Bから取引説明書の交付を受けていないし、取引後に価格の報告も受けなかった。
(イ) 虚偽又は断定的判断の提供による勧誘
証券会社は、取引勧誘の際、虚偽の情報又は断定的判断の提供をしてはならない(証券取引法)が、Bは、本件ワラントを前記のように「必ず儲かりますから。決して損はありませんから。」などと断定的判断を提供して、本件ワラント購入を勧誘した。Bの右所為は、前記(ア)アと考え合わせると、詐欺行為ともいうべきものである。
(ウ) 会社ぐるみの行為
被告は、危険な本件ワラントについて、その危険性を顧客に周知させるよう被告担当者らを指導せず、ワラントを有利なものとして積極的に顧客に売りさばくよう指導していたものである。
(2) 債務不履行責任(予備的)
被告は、本件ワラント取引において、買主である原告に対し、本件ワラントについて正しい説明をし、価格報告をする等の売買契約上の義務があったにもかかわらず、右義務を怠り、原告に虚偽の説明をするなどして、本件ワラント取引をした。
(二) 被告の主張
(1) 不法行為責任について
Bは、本件ワラント取引の際、原告に十分な説明をし、原告はワラントの意味、特性を十分理解した上、買付けしたものであり、Bの勧誘には何らの違法も存しない。なお、原告は、医師で相応の判断能力を有し、豊富な証券取引経験により、原告自らの相場観に従い投資していたものであるから、そのような原告に対し、取引の仕組みを説明しなければならない法律上の義務はなかったが、Bは、以下に述べるとおりワラントの仕組み及び危険性について十分な説明をしたものである。
(ア) 説明義務違反等について
Bが平成二年一月に入ったころ原告の妻に、「新発の新日鉄のワラントというのがあるが興味があるかどうか原告に伝えてほしい。」旨の電話をしたところ、同月二二日、原告からBに「新発の新日鉄の国内ワラントを購入したい。」旨の電話があり、Bは、原告に対し、「ワラントの意味、ワラントの価格の変動、ハイリスク・ハイリターン商品であること、最初の販売価格は二三・九ポイントであること、新株引受権の行使価格、行使期限、期限内に売却するか権利行使をしないと価値がゼロになること」などを説明した。このBの説明を聞いて、原告は本件ワラント五〇枚の注文をし、代金の支払期限であった翌二三日に代金を銀行振込で支払うと約束した。
本件ワラント取引後、被告は、取引報告書、本件ワラントの「預り証」を原告に郵送し、Bは、月に一、二度の割合で本件ワラントの価格と売った場合の代金を原告もしくは原告の妻に伝えていた。ちなみに、平成二年一一月ころ、原告は、転換社債を売却した際、本件ワラントは値下がりしているが、ワラントは戻りが早いから、回復するはずだと述べており、原告自身の相場観に従ってワラントの売却時期を判断していたもので、被告から原告に送付した預り証券等の残高明細を記載した書面に本件ワラントの時価が記載されていたが、原告から購入に関しクレームを受けたことは一度もない。
ちなみに、原告は、多数のワラントを複数の証券会社から購入しており、各証券会社の担当者から適切な説明を受けていたと考えられ、本件ワラント取引は原告にとって一〇回目のワラント取引であり、右のような原告の取引経験に照らせば、原告は、本件ワラント取引当時ワラントについて十分な知識を有していたものであって、Bの言動によって単に儲かる商品だと誤信したり、危険性がないものと誤信したということはあり得ない。
なお、被告は、平成二年四月原告に「説明書」を郵送し、確認書を原告から徴収している。
(イ) 断定的判断の提供等について
Bが「必ず儲かりますから。決して損はありませんから。」などと断定的判断を提供した事実はない。ちなみに、原告は、本件ワラントの値上がりについて購入前から強い期待を有していたものであり、Bが自分の首を賭けて勧誘する必要などは毛頭なかった。
(ウ) 会社ぐるみの行為について
原告の前記(ウ)の主張事実は否認する。Bは、被告からワラントについての講習を受け、ワラントを売る際の指示も受けていた。
(2) 債務不履行責任について
原告の前記(2)の主張のうち、原・被告間において本件ワラントの売買契約が結ばれた事実は認めるが、被告が売買契約上の義務を怠ったとの点は否認する。
2 本件ワラント取引が不法行為又は債務不履行に当たる場合、原告の被った損害はいくらであるか。
(一) 原告の主張
本件ワラントは行使期限の経過により無価値となり、原告は次の損害を被った。
(1) 本件ワラントの代金相当額 金 一一九五万円
(2) 弁護士費用 金 一一九万円
合計金 一三一四万円
(二) 被告の主張
原告の右主張事実は否認する。もっとも、行使期限の経過により本件ワラントが無価値となったことは認めるが、前記のとおり、原告が自由な選択をしたうえで、本件ワラントを保有継続したものであって、すべて原告の責任によるものである。
三 証拠関係
本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録に記載のとおりであるから、それをここに引用する。
第三争点に対する判断
一 争点1(被告の損害賠償責任の存否)について
1 前記第二の一1ないし3の各事実及び証拠(甲二、甲五、甲七、乙一の1ないし21、乙三ないし乙五、乙六の1ないし14、乙七の1ないし18、乙一六の1ないし18、乙一七の1ないし5、乙一八ないし乙二〇、証人B、原告本人)並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
(一) 原告は、昭和一七年生まれの男性で、a大学医学部産婦人科の専任講師をしている医師で、昭和六〇年ころからユニバーサル証券で証券取引をはじめたが、その後、大和証券、山一証券、被告等においても証券取引をしていた。
(二) Bが原告の担当になったのは、昭和六一年八月ころであるが、本件ワラント取引に至るまでの取引内容は、概ね別紙「X口座売買状況表」の1ないし11記載のとおりであった。
(三) 原告が本件ワラント取引をするに至った経緯と、原・被告間におけるその後のやり取りは、概ね次のようなものであった。
(1) 原告担当のBが、平成二年一月中旬ころ、二度にわたり原告の自宅に電話をかけ、「今回、ワラントを買っていただいて、大きく儲けていただくチャンスです。ワラントはいいですよ。新発ですから絶対損しません。新日鉄のワラントです。ひと頃に比べて新日鉄の株式はやや下がっていますが、すぐ持ち直すので何の心配も要りません。必ず儲かりますから。私の首を賭けてもいいですよ。決して損はさせません。」などと言って、本件ワラントの購入を勧誘したところ、原告は、「考えておく」と答えて、明確な返事を先に延ばした。
(2) 同年一月二二日、Bは原告に電話して、「ワラント五〇枚、一一九五万円分やっと取れました。特に要らないというお話がなかったので、取り敢えず買っておきました。決して損はありませんから。明日、銀行から一一九五万円、振り込んでください。」と本件ワラント購入の話を一方的に進めたが、原告から「そんな話は聞いてないよ。私は知らないよ。」と断わられた。そこで、Bは、翌二三日、再度原告に対し、電話で「まだ振り込んでいただいてないようですね。何とか早く振り込んでいただけませんか。私としても困るんです。先生には決して迷惑はかけませんから。ご購入後値段が下がって、ワラントがいらないとおっしゃるなら、会社の方で責任もってお返ししますので、取り敢えず送金だけしていただけませんか。決して迷惑はかけません。」と話して、本件ワラント購入を勧めた。原告は、釈然としなかったが、損はしないということだから、と思い、Bを信用して、金一一九五万円を被告に送金した。
(3) 被告は、本件ワラント取引後、原告に「預り証」や「受渡計算書・お取引の明細」を渡したが、原告は、Bを信用していたので、それらの書類の内容を詳しく見なかった(なお、右預り証には、「権利行使期限以降無効」、受渡計算書には、「権利最終」というような記載があったと推定されるが、ワラント取引の仕組みを知らない者にとっては、その記載の意味は必ずしも定かでなかったと解される。)。その数カ月後に被告は、平成二年四月二三日付けの「国内新株引受権証券及び外国新株引受権証券の取引に関する確認書」に原告の署名、捺印をしてもらい、これを徴収したが、「国内新株引受権証券取引説明書」と題するパンフレットを原告に交付したとの点については確証がない。
(4) 本件ワラントは、本件取引後、平成二年二月中旬ころまではやや値上がりしていたものの、同年四月ころには約半値となり、同年八月ころまではわずかに値戻しをみせたが、同年一〇月ころには約三分の一に下落し、平成三年五月ころには約四分の一に下落し、平成四年五月ころには〇・五ポイントを下回り実質的には無価値となった。
(5) 原告は、仕事が忙しく、Bが何とかしてくれるものと思い、本件ワラントの処分に無頓着であったが、平成三年はじめころ、新聞でワラントの危険性を知った。そして、原告は、被告に対し、危険性について説明を受けていない旨の苦情を申し出たが、損失補填は法律で禁じられているので、どうしようもないとの返事であった。
なお、証人B(乙四)は、「平成二年一月半ばころ原告の妻に『新規発行の新日鉄のワラントがあるので、案内してください。』と伝言すると、同月二二日に原告が『新日鉄の国内ワラントを買いたいのだけれども。』と電話してきたので、代金の払込みの期限が翌日であると言い、ワラントについて、①ワラントとは一定期間内に一定の価格で一定数の新株を買い取る権利がある証券であること、②ワラントの価格は株価に連動して上下し、上下する率が大きいハイリスク・ハイリターンの商品であること、③額面×単価×ワラント数量÷一〇〇で計算されること、④権利行使期限内にワラントを売却するか権利行使しなければワラントの価値がゼロになること、⑤本件ワラントの行使期限は九四年一月二五日であること、⑥一定の金額を払い込んで権利を行使すれば行使価格によって予め決まっている株数を取得できること、⑦本件ワラントは上場するので新聞に載るし、値段は新聞を見るかこちらに聞いてもらうかすれば分かるということを一五分くらいで説明した。なお、証券取引について、原告は、他社で儲かったから、新発の転換社債や公募株を案内してほしいと言っていましたので、それがあれば、原告に連絡していました。取引について原告からアドバイスを求められることはなかったし、しつこく言ってはいけないと言われていたので、しつこく言わなかった。株式や転換社債の売却のタイミングについては、すべて原告の判断でやっていました。『取引説明書』は平成二年四月原告に郵送し、『確認書』を入れてもらった。その後、平成三年一月に転換社債を売却するまで月一回くらいの割合で原告から値段の問い合わせがあったが、それ以降は原告からの連絡がなかったので、私から月一、二度原告に電話して、値段と売却したときの金額等を伝えた。」旨証言(陳述)しているけれども、取引前後の状況に照らし不自然で、全く臨場感のないものというほかなく、原告本人尋問の結果に照らし、右証言部分及び記載内容はたやすく信用することができない。また、原告本人尋問の結果に照らすと、「国内新株引受権証券及び外国新株引受権証券の取引に関する確認書」に原告の署名、捺印があるからといって、被告が原告に「国内新株引受権証券取引説明書」を交付していたとも認め難い。
2 そこで、以上認定の事実を前提にして、被告及びBに違法な勧誘行為等があり、被告に損害賠償の責任があるかどうか、について検討する。
(一) ところで、ワラントの価格は、基本的には新株引受権を行使して得られる利益相当額、言い換えると、株式の時価と権利行使価格との差額によって規定されるが、市場においては、これにプレミアムが付加された価格で取引されており、ワラントの価格は銘柄の株価が上下する幅以上に上下するのが通常であり、そのため、少額の投資により株式売買と同様の投資効果を上げることも可能である反面、値下がりも激しく、さらに、権利行使期間を経過すると紙屑同然になってしまう点で、株式の現物取引を行う場合に比べて、ハイリスク・ハイリターンな金融商品であるといえる。また、ワラントは、昭和五六年の商法改正によって認められたが、国内で分離型ワラントが流通するようになったのは昭和六一年一月以降のことであり、原告が本件ワラントを購入した当時においても、ワラントは一般人には馴染みが薄く、投資者によっては、その仕組みや危険性等につき充分な知識を持たない者も少なくなかった(当裁判所に顕著な事実)。
右のように、ワラントが、一般人には馴染みが薄く、ハイリスクを伴う商品であること等にかんがみると、かかる商品に対する投資を勧誘する証券会社及びその外務員には、投資者に正確な情報を提供し、投資者の意向、知識、経験、資力等に適合した投資がされるように配慮すべき義務があるとともに、本件ワラント等の取引の仕組み、権利行使価格、権利行使期限の意味、ハイリスクな商品であり、無価値になることもあることなどについて十分な説明をする義務があるとともに、その後においても投資家が間違った情報や認識の下で不当に不利益や損失を受けることがないよう適切な助言、情報の提供等を行うべき信義則上の注意義務があるものと解するのが相当であり、また、証券会社及びその外務員が、断定的な判断を提供したり、虚偽の表示をするなどの方法を用いて、投資者を勧誘することが許されないことは言うまでもなく、したがって、証券会社やその従業員が右義務に違反し、それにより投資家が損害を被った場合には、不法行為を構成するものといわなければならない。
本件についてこれをみるに、前記認定事実によれば、原告は、Bの強引な勧誘に負けて、Bから購入するワラントの権利行使価格や権利行使期限等について詳しい説明を受けないまま、Bを信用して、本件ワラントを購入するに至ったものであるところ、担当者のBは、日頃原告が新規発行の転換社債に強い関心をもっていたことにつけ込み、如何にも原告のために本件ワラントをお膳立てしたような口振りでその購入を勧め、さらに「決して損はありません。」「儲かります。」「決して迷惑はかけません。」などと甘言を弄して原告を信用させ、ワラントの仕組みや危険性等について必要な説明もせず、ハイリスクな商品であることやワラントには行使期限があってこれを経過すると無価値になるなどの点について原告の理解を得ないまま、本件ワラント取引を行ったものであって、ワラントの権利行使の手続についても全く教示していなかったものと認められるから、被告の担当者であるBが前記の「説明義務」等に違反したことは明らかである。してみると、Bの本件ワラント勧誘行為は違法であり、不法行為を構成するものといわなければならない。
なお、被告は、前記のとおり、「原告は、多数のワラントを複数の証券会社から購入しており、各証券会社の担当者から適切な説明を受けていたと考えられ、本件ワラント取引当時ワラントについて十分な知識を有していたものであって、Bの言動によって単に儲かる商品だと誤信したり、危険性がないものと誤信したということはあり得ない。」旨主張し、右主張に沿う証拠として、乙二一(別件訴訟の判決)を提出するが、別件における原告本人の調書(乙二五)の記載内容及び当裁判所における原告本人尋問の結果によれば、全体的にみて、原告が証券会社の外務員からワラント取引について十分な説明を受けないまま、外務員の勧誘に応じていたものと認められ、格別不自然な点も認められないから、右の別件訴訟の判決内容をもってしても、いまだ被告主張の「本件ワラント取引当時原告はワラントについて十分な知識を有していた」との事実はこれを認めるに足りず、他に被告の右主張事実を認めるに足りる的確な証拠はない。
(二) そうすると、被告は、Bの使用者として、民法七一五条に基づき、原告に対し、本件ワラント取引により原告が被った損害を賠償する責任があるものといわなければならない。
二 争点2(原告の損害)について
1 前記認定事実によれば、原告は、原告が支払った本件ワラントの購入代金相当額である一一九五万円の損害を被ったものというべきである。
2 過失相殺
前記認定事実によれば、原告は、本件ワラント取引をするに当たり、ワラントの知識を有していなかったのであるから、Bから勧誘された際、適宜質問するなどして取引の内容、特質、危険性等について理解をすべきであったにもかかわらず、仕事の多忙等を理由にしてそれを怠り、Bを全面的に信用して、Bの「儲かりますよ。」「損はさせません。」「迷惑をかけません。」などの甘言を鵜呑みにして、安易に本件ワラントを購入し、本件ワラント取引後に被告から送付を受けた各書類も詳しく読まずに放置し、ワラントの仕組み等についてその詳細を知ろうともせず、Bが何とかしてくれるものと思い込み、ワラントの危険性を知った後も苦情を申し立てるのみで、漫然と本件ワラントの権利行使期限を徒過してしまったものであるから、本件の損害の発生、拡大について原告にも相当の過失があったものというべきであり、右の諸点を斟酌すると、原告の前記損害(一一九五万円)のうち四割を減じるのが相当である。そうすると、被告において賠償すべき原告の損害額は、右損害の六割に相当する金七一七万円となる。
3 弁護士費用
原告が本件訴訟を弁護士に委任したことは明らかであるところ、本件事案の内容、性質、審理の経過及び認容額等にかんがみると、本件不法行為と相当因果関係がある損害として、原告が被告に対して賠償を求めることができる弁護士費用の額は金七〇万円であると認めるのが相当である。
三 まとめ
以上の次第で、原告の本件請求は、金七八七万円及びこれに対する不法行為の日である平成二年一月二三日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるが、その余は失当であるから棄却を免れない。
(裁判官 大谷種臣)